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2008年3月31日 (月)

約束の詩

        旅のつづき

                              

     学生時代のリュックサックに

     地図と磁石とカメラと詩集

     ふらりと君は旅に出た

     悲しいことがいくつも起こり

     人生が真っ暗になってしまい

     答えの出ない悩みを背負って

     逃げだすように旅に出た

     

     君が乗ったのはローカル線

     過疎地の廃線になりそうな鄙びた電車

     中に入ると天井からアジの一夜干しが下がり

     運転手は髷を結った時代錯誤の素浪人ふう

     一見コワそうだけれど頬に含羞の色を浮かべた人

     停車時間の長い駅では傘張りなどし

     運転中には歌を詠んだりBeatlesを口ずさんだり

    

     妙な電車に運転手

     いったいどこへ行くんだろ

     降りてみてもすぐにまた乗ってしまい

     君は沿線から離れることができなかった

     サムライくずれの運転手

     ときどき具合わるそうで

     電車を停めてシートに横になるもので

     

     心配で君はほかの土地を旅もせず

     向かいのシートに寝ころんで

     詩集をひらいて読むふりをした

     けれど三日たてば運転手

     ちょっとわるい顔色をして起きてくる

     それでも笑顔でアナウンス

     たった一人の客の君に「出発進行!」

 

     この電車はどこへ行くのですか

     あなたと同道 どこまでも

     わけのわからない答えを返し

     サムライくずれは微笑んだ

     けれど旅はいつまでも続かない

     ついに現実へもどる日がやってきて

     後ろ髪ひかれながら乗り換え駅で君は降りた

     

     旅の終わり

     君のリュックの中には重いフィルムカメラ

     何十本もの使用済みフィルム

     この沿線で撮りためた風景や

     出逢った人々に野良猫に花

     センチな湿気をふくんだ海風

     希望を舞い上げて嗤う春風

     

     旅の終わりは旅の始まり

     あるいは中継ぎ駅での時間待ち

     明るい陽射しがふりそそぐ野原に菜の花

     君のあたまの上からは桜ひらひら

     ホームのベンチで居眠りでもして

     旅のつづきを夢みて待って

     

     地平線の向こうから

     懐かしい色をレールに載せ

     君に知らせる警笛ならし

     一輌ぽっちの古い電車が

     陽炎のように現れるまで

 

     右近号はまだ走る

     君を乗せてゆるゆると

     終着駅は此の世の涯て

  

                          水無月右近

                                     2008.3.31

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コメント

この詩を大切に何度も読みます。

右近さん、ありがとうございます。

投稿: さくら | 2008年3月31日 (月) 22:38

私も右近号に乗って終着駅へ・・・・・・。

傘張りのお手伝いをさせてくださいませ。

あっ、アジの一夜干しが・・・

夢の続きを見させてください。

投稿: hanaco | 2008年3月31日 (月) 19:40

胸が詰まり、喉がつまり、込みあげた何かは、結晶となって、眼尻からこぼれて行きました・・・

投稿: K | 2008年3月31日 (月) 19:25

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