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2009年8月 6日 (木)

ヒロシマ

   
   「絵本」 
          

          峠 三吉

   

   たたかいの手に 傷つけられた
  
  瀕死の母親にみせる その子の絵本

   
   たかい格子窓から 一筋の夕日が
 
  負傷者収容所の 冷たい床に落ちてとどまる

   
   火ぶくれの顔のうえに ひろげ持ち
  
  ゆっくりと繰ってやる 赤や青の幼い絵
  
  古いなじみの お伽ばなし

   
   カチカチ山の狸のやけどに 眼をむけた
  
  隣のおとこの呻きも いつか絶え
  
  ぼんやりと見つめていた 母親のめに
  
  ものどおい 瞼がたれ

   
   苦痛も怨みも 子につながる願いさえ
  
  訴えぬまま 糞尿の異臭のなかに
  
  死んでゆく
  
  しんでゆく

         

            ※ 峠 三吉 原爆詩集「にんげんをかえせ」より

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